「四方山話」 其の十三
1.大便
2.老婆心・独語
□■□ 大便 □■□
大便は秘結(便秘)と下痢に大きく分けられる。
秘結するものは実証が多い。しかし例外もある。
嘘証で秘結する者には、腹に力がなく、兎の糞のようなコロコロした
大便で2~3日便秘していることもある。
この時は、六君子湯・柴芍六君子湯・補中益気湯を用いると、気持ち
のよい便通があるようになる。
熱病で秘結し、腹に弾力のないものは、強い下剤を使用すると、
気力がなくなり病気も好転しない。
この時は、附子理中湯・四逆湯・真武湯を用いて、温めると、
かえって大便秘が通じ熱も下がる。
大便が軟らかいのに、一回に快通せず、少しずつ度々出ていつまでも
さっぱりせず、下腹部が膨満して気持ちが悪く下剤をもちいると、
腹が痛んで裏急後重(ひんぱんに便意をもよおし、排便はまれにでて、
肛門部の疼痛に苦しむ)が起こり大便が快通しない。
この時は小建中湯合大建中湯を用いる。
又、癒着などがあって便秘の人によい。
下痢するものは、水滞が関係していることが多く、裏寒(臓腑の寒証で、陽気の不定。
又、外寒が裏に伝わることにより起こる)のことが多く、一般に協熱利(下痢)は、表熱と裏寒が合わさって下痢をする
と考え、脾虚、腎虚とみなして対処する。
下痢していても、裏急後重のはなはだしいものは実証のことが多く、 この時、芍薬湯・大柴胡湯・桂枝加芍薬大黄湯を用いる。
慢性下痢の患者に収斂剤をもちいて、無理に下痢を止めると、 みずおちがつかえて膨満し、食欲は不振となり、悪心を訴えること がある。
下痢をして、心下痞鞭(みぞおちの下がつかえている。膨満している 状態)、腹中雷鳴がある時、半夏シャ心湯・甘草シャ心湯を用いる。
下痢が長びき、ピチピチと音をたてて泡のまじる場合には、胃風湯を 用いる。
食欲について、実証の人は、食べ過ぎても、下痢したり、嘔吐したり することはなく、食事の時間が遅れても腹がすて堪えがたいという ことはない。
嘘証の人は、少し多く食べると、腹が張って苦しくなり、ときには 吐いたり、下痢をしたりする。
食事の後で、だるくなって眠くなるものは、胃腸が弱いので、六君 子湯・半夏白朮天麻湯・補中益気湯・清暑益気湯を用いる。
熱のある病人で、お血のある者は、よく食べ、精神はもうろうとして 唇は少し黒味を帯びている。
この時は、桃核承気湯を用いる。
食欲がないのと、食べられないのとは異なる。
又、腹が張って食べると苦しいので食べられない時は、まず腹の張り
を治すことが大切で、食欲の範囲ではない。
□■□ 嘔吐 □■□
嘔き気のものには、生姜・乾姜を配合する。
などをよく聞いてから薬を調合する。
悪心を伴う嘔吐で、吐いた後で、粘液がつづいて出る場合、 小半夏加茯苓湯を用いる。
口渇を伴う嘔吐で多量の水を飲み、また水を吐く場合、必ず尿利の 減少があり、嘔吐には半夏剤は無効で、沢シャ、猪苓、茯苓、朮の 配列された五苓散・茯苓沢シャ湯を用いる。
激しい頭痛を伴う嘔吐の時は、呉シュユ湯などを使用する。
□■□ 老婆心独語 □■□
【 胃腸を正すことが布石となす 】
昔年より風は万病の本と云う。
これは中国で発し、日本で云う所の感冒では無く、気象万般の大自然の一つ、風を指示し、身体が風に冒されシ種々の病を誘発する意味。
だが真意は「万病の本は風にあらず、胃腸病にあるを知れ」
すなわち、口から肛門までの粘膜壁に包まれた管は、休憩なく動き続く。
ここに負担をかければ、胃腸は弱り風を引き起こす。
そして多種の自覚症状を起こし、延いては五臓六腑の機能を弱める。
これが万病の真相である。
胃腸病は単に服薬のみで治療を欲することは至難である。
食養土と密接に関係する場所で、食と薬と休養の三位一体となった治療法が必然的となる。
至極平凡な事のようでも、中々出来ぬのが常である。
中国前漢末の学者の劉向は、古人の言行を示して時局を批判した
「説苑」の中に、
「禍福は地中より出ずるにあらず、
天上より来たるにあらず、
己自らこれを生ず。」
とある。
何に事も自分自身の行いより生ずる。
自分の考えや行動がすべての元になる。
長寿及び短命の鍵は、胃腸の健否如何にある。